最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)1425号 判決 1963年12月05日
京都市中京区釜座通夷川上る亀屋町三四四
上告人
株式会社西尾商事
右代表者代表取締役
西尾弥一郎
右訴訟代理人弁護士
種谷東洋
同市同区室町通三条西入る
被上告人
中京税務署長
中田清
右当事者間の法人税課税処分取消請求事件について大阪高等裁判所が昭和三六年九月三〇日言い渡した判決に対し上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人種谷東洋の上告理由第二点について。
上告会社の代表取締役西尾弥一郎は訴外田中源之助から本件不動産を昭和二九年五月四日、代金七〇万円で買取り、次いで同年一二月六日これを訴外大同石油株式会社に代金一、七五五、〇〇〇円で転売した旨の原審の事実認定は原判決挙示の証拠資料(甲第八号証、原審証人田中春栄の供述を含む)を照合すれば首肯できないわけのものではなく、その認定の経路に所論違法のかどあるを見出し得ない。所論は縷々論述するが、帰するところ、原審の裁量に任かせられてある証拠の取捨、評価及びこれに基づいてなされた自由な事実認定を非議論難する以外のものではなく、上告適法の理由として採用する能わざるところのものである。
同第三点について。
甲第一号証によれば所論登記のあることは所論のとおりである。しかし、原判決は前段説示したところによつて、明らかなとおり、本件不動産は上告会社が会社として大同石油株式会社に売渡したものであり、西尾弥一郎個人が売渡したものではないと認定しいるのであるから、所論の主張は自ら排斥されているわけであり、従つて原判決中所論特記の部分はあらずもがなの説示と認めるを相当とする。されば所論は終局原判決に影響ある程の重要な法令違反を主張するものとは認められず、採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤朔郎 裁判官 長部謹吾)
○昭和三六年(オ)第一四二五号
上告人 株式会社西尾商事
被上告人 中京税務署長
上告代理人種谷東洋の上告理由
第一点 原判決は重大な法令違背がある。
原判決は理由の冒頭において「本件家屋は西尾弥一郎個人が田中源之助から買取つたが、右売買は合意解除され、同訴外人から大同石油株式会社へ譲渡されたものであり、控訴人は単にその仲介をなしたものに過ぎない」という控訴人(上告人)の主張に対し、これを排斥する理由として次の如く論断している。即ち「西尾弥一郎が個人として会社と競業する本件不動産の売買に関与したとなすことは、これにつき株主総会の認許をえたことの主張立証のない本件においては首肯できない。」と説明している。しかしこの判断はまちがつている。上告人は不動産売買を業とする会社ではない、売買のあつせんを業とする不動産仲介業者である。西尾弥一郎個人が本件不動産を買受けること自体毫も上告人の業務とていしよくするものではない、競業関係に立たぬことは明白である。売買につき株主総会の認許を要しないことは当然である。原判決はこの出発点から誤つた見解に立つて事実関係を判断しているのである。それは商法第二六四条の解釈を誤り判決に重大なる影響を及ぼす重大な法令の違背といわねばならない。
第二点 原判決は証拠によらずして事実を認定した違法がある。
原判決は「成立に争ない乙第一号証の一、第三、第四号証の各一部に原審証人藤原弘之(一部)八神重信、中村与一の各証言と弁論の全趣旨を綜合すると、控訴人の代表取締役西尾弥一郎は控訴人のため訴外田中源之助から昭和二九年五月四日本件不動産を代金七〇万円で買受け……これを訴外大同石油株式会社に転売したことを認めることができる」と判示した。この判断は違法である。その挙示する証拠によりては右事実認定はできないのである。その証拠を逐一検討してみる。乙第一号証の一によれば昭和二九年五月四日田中は西尾弥一郎に本件不動産を代金七〇万円で売渡した旨記述するに過ぎない。乙第三号証も西尾弥一郎が右不動産を田中より代金七〇万円で買受けたこと、上告人が加藤商店と協力して右物件の売買を仲介して大同石油株式会社に売渡した事実を記載するに過ぎない。又乙第四号証は右と同趣旨を記載しているのである。右文書には上告人が田中から買受けたとは記載してないのである。次に証人の証言を調べてみる。証人藤原弘之は会社(上告人)は単に田中源之助のため売買の仲介をしたことを終始一貫して述べている。上告人が田中よりこれを買受けということは一言も言つてないのである。進んで中村与一の証言をつぶさに調べてみるに、同人も田中源之助と西尾弥一郎間に売買が成立した事実に関して陳述し、上告人が買主であるとは陳述してないのである。唯証人八神重信の証言によると証人に対して田中源之助は本件土地を上告人に売つた旨陳述し、西尾弥一郎は同人が買受けたものである旨陳述した事実があると証言した。原判決が事実認定に採用した以上の証拠によれば原判決の認定とは反対に、本件物件は西尾弥一郎が田中から買受けたものであつて、上告人が買受けたものでないと認定するのが当然である。尤も原判決は右諸証拠の外にその他弁論の全趣旨を綜合すると言つているが弁論の全趣旨とは何をさすのか不明であり、右の判示事実を否定する証拠はいくらでもあるが、これを肯定すべき的確な証拠は一もない。原判決の認定は無より有を生ずる術に類するのである。結局原判決は証拠によらずして事実を認定したという重大なる手続上の違法がある。
第三点 原判決は重大な争点の判断を遺脱した違法がある。
上告人は第一審以来、西尾弥一郎が田中源之助より本件物件を買受け所有権移転請求権保全の仮登記を経たが、後、合意により売買契約を解除し登記を抹消した上、田中より大同石油株式会社へ所有権移転登記を了した旨主張し、甲第一号証登記簿謄本によれば右登記のあることは明白である。凡そ不動産取引において登記の重要なことは言うまでもないことであり、特段の反証がない限り、登記された権利変動の事実があつたものと認めるべきである。原判決は漫然と上告人が買受けたと判断しているが、右登記の点については毫も言及してない。一体原審はこの登記について如何に考えたのであろう。この点を考慮すれば自ら別異の結論も可能であるかも知れない。この重要な事項を判断しないことは判断の遺脱が理由不備と謂わざるを得ない。 以上